S = 1/2 一次元反強磁性鎖における量子スピン液体状態

低次元磁性体は、低温での新奇な磁性相や磁気相転移現象などの出現から、大変注目を集めています。特に、量子性の強いS = 1/2の系では、量子ゆらぎのために磁気秩序状態が抑制されたスピン液体状態などの興味深い物理現象が期待されてきました。 我々が開発に成功した層状遷移金属酸化物Rb4Cu(MoO4)3(図1)は、CuがS = 1/2の磁性を担い、一次元反強磁性鎖に特徴的な振る舞いを示すことを見出しました。 たとえば、交換相互作用が10 K程度にも関わらず、比熱測定においては0.1 Kまで長距離磁気秩序を示しません。 代わりに、絶縁体でありながら金属と同じ温度の一次のべきに従います(図3)。 また、帯磁率測定における5 K付近のブロードなピークはスピンの短距離的な相関が発達し、やはり、ギャップが存在しないことを示します(図4)。 これらの振る舞いは強い量子効果によりスピンが揺らいだ、一次元反強磁性体に特有のものです。 これは、層内のCuの3d軌道の波動関数dx2-y2が異方的に結合していることによると考えられます。一次元反強磁性鎖の多くの物質は、鎖間相互作用との競合などから、基底状態ではスピンシングレットを形成し、励起状態との間にエネルギーギャップをもつことが多く、この様な量子スピン液体的な振る舞いは、Sr2Cu(PO4)2などの限られた物質でのみで報告されていました。 Rb4Cu(MoO4)3は、 新しいS = 1/2 一次元反強磁性体として、Luttinger Liquid、 Spinon Excitation などの量子現象を理解する上で非常に重要な物質となると予想されます。

図1: Rb4Cu(MoO4)3の結晶構造。Cu2+がa軸方向に一次元鎖(点線)を形成。

図2: Rb4Cu(MoO4)3の結晶。

図3: 比熱の温度依存性。零磁場比熱は0.1 Kの低温まで長距離秩序を示さず、温度Tに比例する一次元磁性体に特有の振る舞いを示す。

図4: 帯磁率の温度依存性。5 K付近のブロードなピークはスピンの短距離的な相関の発達を示す。
[1]Rieko Ishii, Dixie Gautreaux, Keisuke Onuma, Yo Machida, Yoshiteru Maeno, Satoru Nakatsuj and Julia Y. Chan, Journal of the American Chemical Society 132, 7055-7061(2010).

このページのトップへ

研究テーマに戻る


大学院生・ポスドク募集

私たちの研究室では大学院生、ポスドクを受け入れております。大学院入学希望者、ポスドク希望者の方はこちらを参照してください。