■ 擬二次元三角格子反強磁性体のモデル物質Rb4Mn(MoO4)3の開発:特異な逐次相転移と磁気相図

二次元三角格子反強磁性体は, 幾何学的フラストレーションをもつ格子系において最も単純な構造をとることで知られており, 1950年の伏見, ワニエらの先駆的な理論以来, 半世紀以上の研究の歴史があります. また, フラストレーションと低次元性の競合からスピン液体, カイラル磁性など興味深い物理現象を示す母体として盛んに研究されてきました.通常, どの物理分野でも共通して言えることですが, 磁性のより完全な理解のためには理論と実験との間で定量的な整合性が重要となります. しかし, 現実の多くの三角格子反強磁性体は強い層間相互作用や次近接相互作用など, 複雑な相互作用が存在する為に, そのような定量的な整合性が見られる物質の報告はこれまでありませんでした. そのなかで, 我々は, S=5/2のハイゼンベルグ型擬二次元三角格子反強磁性体Rb4Mn(MoO4)3の単結晶を開発し, その低温磁性を明らかにした結果, この物質は最も単純な最近接の相互作用で記述される理想的な三角格子反強磁性体であることを発見しました. 多くの物質が反強磁性の発現とともに構造相転移を示すことが知られていますが, この物質は, S=5/2の磁性を担うMn2+が反強磁性転移点以下の1.5 Kまで正確な三角格子を形成している大変珍しい物質です(図1). 磁化過程においてH//cの時, 容易軸異方性の為に1/3磁化プラトーが現れることや(図2), ゼロ磁場比熱における逐次相転移(TN1 = 2.4 K, TN2= 2.8 K)の存在が明らかとなりました. これらの結果から磁場-温度相図を作成し, 理論との比較を行った結果, 定性的かつ定量的に一致することを確認しました. Rb4Mn(MoO4)3はこのように理論の予言を定量的に検証した初めての例です(図3). Rb4Mn(MoO4)3は, 擬二次元三角格子反強磁性体の研究における典型例として非常に貴重な物質であると言えます.

図1:Rb4Mn(MoO4)3の結晶構造. Mn2+が正確な三角格子を形成している.

図2: Rb4Mn(MoO4)3の磁化過程. 容易軸異方性の為に, μ0H//cの時に1/3磁化プラトーが現れる. さらに, 実験(赤実線)とモンテカルロシミュレーション(黒破線)の結果が一致することが明らかとなりました.

図3: Rb4Mn(MoO4)3の磁場-温度相図. 容易軸異方性をもつ二次元三角格子反強磁性体においてRb4Mn(MoO4)3が実験と理論が定性的・定量的に良い一致を見せる初めての物質であることが明らかとなりました.
[1]R. Ishii et al., Europhysics Letters 94 (2011) 17001.

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